ガソリン車廃止の風潮に苦言

日本自動車工業会の豊田章男会長が17日にオンライン記者会見を行い、国の方針である脱炭素社会実現に向けたEV化の移行について

「全力でチャレンジするが国家のエネルギー政策の大変革無しにはなかなか達成は難しい」

「脱炭素にはガソリン車さえなくせばいいという報道が多いがそう単純な話ではない」

「マスコミ各社の対立軸をベースにした報道により世論が惑わされる」

など、苦言を呈しました。
豊田会長の発言を要約し記事化しようと思いましたが、豊田会長のメッセージを歪めない為にもあえて全文書き起こして掲載することにします。
長文になりますが、「脱炭素」というテーマは我々国民の生活に今後大きく関わってくる問題ですので是非全文お読みいただければと思います。
 
自工会 豊田会長が全面EV移行に懸念 小泉環境大臣「脱炭素への考えは同じ」(2020年12月18日)


【国の”脱炭素社会実現”EV化の移行について】
自工会としては2050年のカーボンニュートラルを目指す菅総理の方針に貢献するため全力でチャレンジする事を決定致しました。
ただ、画期的な技術ブレイクスル―なしには達成は見通せず、サプライチェーン全体で取り組まなければ、国際競争力を失う恐れがございます。

大変難しいチャレンジであり、欧米中と同じ政策的財政的支援を要請したいという風に思っておりますが、補足させていただきますと、今まで自動車業界としてはCO2排出量も01年度から08年度を比べると、01年の2.3億トンだったのが1.8億トンと22%削減しています。
平均燃費も01年の時にはJC08モードで13.2km/リットルだったのが、18年度は22.6km/リットルに向上し、いわば71%向上しております。

次世代の車の比率も08年度は3%だったのが、19年度39%と36%上がってきております。
電動化比率もご存知のように世界第二位の35%。
一位はノルウェーの68%ですが、絶対台数でいきますとノルウェーの10万台に対して、日本の台数は150万台です。

それと作ってる工場自体も、工場のCO2排出量は90年度の990万トンから18年度は631万トンと36%削減をしております。
自動車会社が作る、そして作ったものを売るというところでは結構努力をしておりますし、データ上もこうして結果が出ていると思います。

カーボンニュートラル2050と言われるのですが、これは国家のエネルギー政策の大変革無しにはなかなか達成は難しいということをぜひともご理解いただけたらと思います。

例えば日本では火力発電が約77%、再生可能原子力が23%の国であります。
かたやドイツやフランスでは、火力発電が例えばドイツでは6割弱、再生可能原子力が47%です。
フランスは原子力中心となりますが89%が再エネ原子力で、火力は11%くらいです。

ですから、こういう電気を作っている事情を絡めて考えますと、例えば当社の例になってしまいますが、ヤリスという車を東北で作るのと、フランス工場で作るのとでは、同じ車だとしてもカーボンニュートラルで考えるとフランスで作っている車の方が良い車ということになります。
そうしますと日本ではこの車は作れないということになってしまう。

それとあえて申し上げると、先ほども質問にありました「EV化によりガソリン車を廃止しましょう」はよくマスコミ各社も「電動化=EV化」ということで対立的に報道されますが、実際は乗用車400万台を全てEV化にしたらどういう状況になるかを試算したので是非紹介させてください。

夏の電力使用のピークの時に全部EV車になった場合は、電力不足に陥ります。
その解消には発電能力をプラス10~15%増やさないといけません。
この10~15%というのは、実際はどんなレベルかというと「原発でプラス10基」「火力発電であればプラス20基」必要な規模であることをご理解いただきたいと思います。

それから保有すべてをEV化した場合、充電インフラの投資コストは、これは約14兆円から37兆円にかかります。
自宅の充電機増設は約10万から20万円、1戸の集合住宅の場合これは50万から150万。
で、急速充電器の場合は平均600万の費用がかかります。
約14兆円から37兆円のこの充電インフラコストがかかりますよというが実態です。

EV生産で生じる課題としては、例えば電池の供給能力が今の約30倍以上必要になるということです。
そうしますと、コストで2兆円。
それから何よりも、EV生産の完成検査時には、いわば消費される電力がございます。
例えばEVをやる場合、その完成検査に充放電をしなきゃいけないので、現在だと1台のEVの蓄電量は家1軒の1週間分の電力に相当します。
これを年50万台の工場だとすると、日あたり家庭5000件の電気を充放電することになります。

火力発電で作って、CO2をたくさん出した電気を作り、そのうちの各家庭で使う日あたり5000件が単に充放電されるぐらいじゃないと維持できませんよというような形を分かって政治家の方があえて「ガソリン車をなしにしましょう」と言っておられるのかどうなのか。
その辺はぜひ正しくご理解いただきたいなと思っております。

これは国のエネルギー政策そのものでありますし、ここに手を打たないと、この後この国ではもの作りを残して雇用を増やし、税金を納めるという自動車業界が現在やっておりますビジネスモデルが崩壊してしまうおそれがあるということは、ご理解賜りたいなと思います。

ちなみに今年コロナ禍において就業者数が日本全体では93万人減ってきております。
しかしながら、自動車業界は11万人増やしております。
これがもし仮にカーボンニュートラルで日本で作ってるクルマはCO2の排出が多いため作れなくなるということでありますと、コロナ禍においても増やしていくような、下手をしたらゼロかマイナスの方へ行ってしまう。
これが本当にこの国にとって良いことなのか悪いことなのか、その辺はみなさまのご良識にお任せいたしますが、ぜひとも自動車産業はそういうギリギリのところに立たされておりますので、ぜひとも正しい情報開示よろしくお願いしたいなと思います。

【EV化の軽自動車への影響】
この電動化比率を見ても、例えば軽中心のダイハツさんは現在その電動化比率が非常に低いです。
ところがこの軽というクルマはいわば日本の国民車です。
そのモビリティである軽自動車しか走れない道、その軽自動車しか相互通行できない道が日本には85%あります。
ですから、軽が無くても都会では生活ができるかもしれませんが、一歩地方に出てみた場合、完全なライフラインになっております。
何とかこの軽がこのCASEの時代かつ電動化でいろんなルールがある中でも、やはり軽の存在、そしてお客さま目線の存在っていうことを、自動車業界のわれわれが忘れてしまっては駄目なんじゃないのかなと思います。

そういう意味では、やはりみなさん方にぜひお願いなんですが、「ガソリン車さえなくせばいいんだ」という報道をされることが、「カーボンニュートラルに近道なんだ」というふうに言われがちになるんですが、ぜひとも日本という国は、やはりハイブリッドとPHV、FCV、EVというその中で、どう軽自動車を成り立たせていくのか?どう今までのこのミックスで達成をさせていくのか、そっちの方に行くことこそが日本の生きる道だと思います。

私も自工会会長として、現在の自工会の体制を見直しまして副会長、2輪代表、大型代表、そして軽については副会長が入っておられませんけど、私が今のところ軽の件を代表したものを言っております。
2輪、大型、軽そして乗用を合わせて、日本という国が今までの実績が無駄にならないように、どう2050年のカーボンニュートラルに向けていくか。
簡単なことでもないですし非常に複雑です。

でも自動車業界は今朝、難しい状態であるけどもチャレンジしようということを全会一致で決めております。
ですからぜひとも、日本は電動化に遅れてるとか異様な書かれ方をしてしまいますけども、これも実際は違います。結構進んでおります。
この進み方がどういう形で日本のよさを維持発展させながらやっていくのか。
ぜひとも応援をいただきたいというふうに思います。

【理解促進に向けすべきこと】
対立をベースにした議論を止めていただきたい。
「どっち対どっち」、それから民主主義の名のもとに穿って見ている見方を少数意見と称してそれを取り上げ、それ対正しい意見の対立軸でやると、やはりこうなってしまうのではないかと思います。

世論というものはご自由に意見は言って頂いて、端な意見、まともな意見、それぞれの立場によってその内容は変わるでしょうが、それをベースに本当のサイレントマジョリティーがそれを取捨選択をして、「こっちが正しいんだろうな」と思うのが私は世論だと思います。
そうした時にあたかも「自分達がニュースを作っていくんだ」というようなマスコミ各社が対立軸をベースに物を書かれますと、やはりこういうことになってしまうのではないかと思います。

どれだけ明日の朝刊などで私を批判していただいても結構ですけど、要は一生懸命雇用も増やし、税金も納め、そしてもっと良い国にしようという経営者および従業員、いろんなステークホルダーがいます。
そういう人を応援できるような報道、応援できるような形が無いとこの国はどんどんどんどん悪口を言う、秘密警察のごとく「あの人こんなことしてたよ」というような報道ばかりになってしまうのではないのかなと非常に危惧しております。

なにも我々に同意した記事を書いてくれとお願いしておりません。
ただ変な誘導というのは本当に罪のない多くのサイレントマジョリティーの人が惑わされます。
コロナの時もそうです。
ですから今、何を信じていいのかわからないのが国民じゃないでしょうか。
ですからそういう気持ちを持った報道の方も必ずおられると思いますので是非ともよろしくお願いしたいと思います。

【業界としての必要な対応】
今回のカーボンニュートラルに対しても、これは国の大変革が必要だと認識しつつも、我々自動車業界は積極的にチャレンジをするということを決議しております。
ですから難しいものに対してもそれが環境にいい、より安全にもいいということであれば積極的に行き続けるのが日本の企業だということを是非ご理解頂きたいと思います。
そしてその時点で何を忘れないようにすべきかというのは、やはりユーザー目線じゃないのかなと思います。

そんな素晴らしい規制を加味したルールであり、どんな素晴らしいスペックであっても、それが一般の方には手の届かない価格にあるだとか、一般の方には全く高根の花であるというようなものは、やはり量産をベースにしております自動車業界としてはやっちゃいけないことなんじゃないのかなと思います。

ですからいろんな規制もあるでしょう、いろんな技術の進捗の差もあるでしょう。
けれどもどの会社であれ、それは自動運転であれ、そして自動運転であったら目的を安全第一にする。交通事故死をゼロにすることを目的にする。
電動化であるならば、それがCO2排出や温暖化に向けて良い方向に持っていこうよというブレない軸を正しくする。

そして何よりもそれを使っていただくユーザーが活躍できる市場というものを忘れてしまっては大変マズイんじゃないのかなと思いますので、微力ではありますがユーザー目線でそういうようなことをいろんなディシジョン(決断の意味)の場で指摘もし、議論もしていくことは皆さんの前でお約束をさせていただきたいなというふうに思っております。



以上となります。

この会見は

「変な誘導というのは本当に罪のない多くのサイレントマジョリティーの人が惑わされます」

の一文に尽きると思います。
昨日UPした記事の”環境省の「レジ袋キャンペーン」は「炭素税導入に向けたアリバイ作り」だ!”も

レジ袋有料義務化にしろ炭素税にしろ、あらゆる角度から見た考えや検証データを並べて、「なにが環境を守ることと豊かで安全な社会生活を送ることが両立出来る方法なのか」をみんなで考えることが大切

で、そのためには情報の開示が必要だと強く思うということを書きました。



私自身は「そもそも脱炭素に意味があるのかどうかから議論すべきだ」と思いますが、そこを100歩譲っても「脱炭素のためにはガソリン車さえ廃止すればいい」なんて短絡的な考えは全く共感できなかったので、今回の豊田会長の会見は非常に意味のあるものだと思います。

大したことは言っていないので省略しましたが、上記の動画の最後には小泉環境大臣のコメントがあります。
小泉大臣は「豊田会長と考えは同じ」という趣旨のコメントをしていますが、「ガソリン車廃止」については過去の会見でこの様な見解を述べています。

小泉大臣記者会見(令和2年12月4日)
課題はあります。だけど、越えていくしかありません。
ですので、充電器とかこの数を増やすこと、社会にメリットをつくること、そして値段を下げて一人でも多くの方が値頃な、消費者の皆さんが買いたいと思う、そういった形に持っていけるかどうか、まさにこれは国を挙げた取組も問われますから、環境省としてもできる限りの支援をやっていきたいと思います。
中国なんかは43万円でEVという、こういった報道もありますから、試しに乗ってみたいものですね。
そういうふうに世界は動いています。どれだけ課題があっても、方向性さえ示せば日本は必ずクリアできると思います。

小泉大臣記者会見(令和2年10月30日)
(EV車普及には補助金政策と販売規制政策とどちらが良いと思うか?の質問に対し)
どちらかというだけではないと思いますね。
やはりあらゆることを考えて、日本にとっては一番前向きに社会を脱炭素社会に向けて進めていける策をあらゆる観点から考えて実行するということだと思います。
まず、EVの導入支援ということについては、私はやっぱり1台当たりの補助額、これが分かりやすいと思います。例えば今、日本は最大で40万円ぐらいですよね。
だけど、フランスは140万円です。そしてドイツは110万円です。つまり日本が3倍にしてもフランスに届かない。2倍にしてもドイツに届かない。日本はマーケットシェアは0.5%です。
こういったことを考えると、じゃあ消費者の皆さんにとってEVを買おうと、それが環境負荷も下がって、結果として今ガソリンスタンドの数よりも給電口の数、充電するEVの、その数がほぼ同等か、それより上回っているぐらいもう来たというふうなことも言われているぐらい、インフラもだいぶ改善されてきました。
ですので、じゃあEVを買おうかな、そう思っていただくには分かりやすく1台当たり幾らですと、こういったことは分かりやすいと思います。
一方で、インドは2030年まで、中国やカリフォルニア、イギリスは2035年、そしてフランスは2040年、このガソリン車の販売を禁止、こうやってガソリンだけで走る車を市場から退出させていく、このメッセージ性は私は相当なインパクトだと思います。
そしてこの前、「エコノミスト」が書いていましたけど、カーボンプライシングというような手法を取って脱炭素化を進めていくという手法とガソリン車を退出させていく、こういった手法を比べたときに、CO2の排出を減らすという実効性の面において、カーボンプライシングとこのガソリン車の販売禁止というのは同じぐらいの効果があるのではないかというような論考、こういったことも出てくるようになりました。
ですので、こういった世界の市場の動き、これは日本からすれば、いくらハイブリッドで燃費がいいよといったところで、ガソリン車を売れないというマーケットが増えていったら、日本の最大の産業でもある自動車産業、その中での商品が、売れるマーケットが縮んでいくということですから、私はこのEVや水素車、FCV、これに対して日本がより前向きに取り組んでいく方向で環境省としては後押しを考えたいと、我々として独自にできることもやっていきたいと思っています。

バラマキと規制によりEV車は普及するという考えと、根本的なエネルギー政策から変えないと無理という豊田会長とどのあたりが「考えは同じ」なのかさっぱりわかりませんが、豊田会長が指摘している点が全く眼中にないのは確かのようです。
これが経営者と社会経験のない世襲政治家の違いなのでしょう。

どうであれこうした民間からしっかりとした意見を捻じ曲げず報道し、国民一人一人が考える環境を作ることが一番大切だと思います。

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