地方交付税入門(明日のためにその5

本日の記事は全員出発さんによる地方交付税解説の連載記事です。











全員出発さん、ありがとうございます

今回は地方交付税の歴史と特別地方交付税について、ざっと説明します。

Ⅰ 地方交付税の歴史
1 シャウプ勧告
地方交付税も「シャウプ勧告」が生み出した制度です。
昭和24年9月に公表されたシャウプ勧告の中では、地方税総額の増加とともに「一般平衡交付金」の創設などが提唱されていました。
この「一般平衡交付金」が「地方財政平衡交付金」として昭和25年度に制度化され、それが昭和29年度に地方交付税に改組されて現在に至っています。
地方交付税を理解するうえで重要だと第1回で説明した「衡平」の概念はシャウプ勧告に由来しています。
 
2 地方分与税
地方交付税のもう一つの母体が昭和15年度に誕生した「地方分与税」です。
これは「譲与税」と「配布税」の二つからなっています。
譲与税は「地租」、「家屋税」、「営業税」の3つを徴収地に還元するもの、配布税は「所得税」、「法人税」等5税の一部を財政調整的に配布するものです。(昭和24年度廃止)
配布税は課税力と財政需要の2つの要素で配分されました。
課税力の基準は平均的な税収に満たない地方自治体に不足分を保証するもので、財政需要の基準は単純に人口比例で配分されました。
したがって、不交付団体というものはなく財政需要分はすべての自治体に交付されました。
このあたりがシャウプ調査団にとっては「衡平」でないと判断されたのだと思います。

3 一般平衡交付金
シャウプ勧告で示された「一般平衡交付金」には次のような特徴がありました。
ア 各地方自治体ごとに「標準必要額」と「基準収入額」を見積り、地方財政委員会(後述)が取りまとめる。
イ 「標準必要額」は合理的な最小限度の行政を行うと仮定した場合に試算される地方団体ごとの歳出の標準必要額
ウ 「基準収入額」は予想される地方税額(留保財源の概念はなし)
エ 必要額が収入額に満たない場合、その差を交付金額とする
オ 国から地方自治体への補助金は原則として廃止
カ 地方自治体の代表者等からなる地方財政委員会を設置し、不足額の予算要求等の事務を行う。

4 地方財政平衡交付金
「一般平衡交付金」を実際の制度にしたものが「地方財政平衡交付金」です。
平成25年度から28年度の間、存在しました。
一般平衡交付金との違いは下記の通りです。
ア 需要額・収入額とも各自治体の積み上げでなく国において算定することにした→地方財政計画
イ 収入額において留保財源を設けた→基準財政収入額
基準財政収入額、基準財政需要額という交付税額を算定する鍵となる概念はこの時確立しました。

5 地方交付税へ
「地方財政平衡交付金」は昭和25年度から28年度の4年間しか存在できませんでした。
なぜか、一言でいうと「パワーゲーム」の激しさに皆が疲れ果てたからです。
平衡交付金は地方財政員会(後に自治庁)が取りまとめて予算要求する仕組みでした。
原理的には0ベースからの積み上げになるので、その総額をめぐって、毎年度、激しいパワーゲームが繰り広げられたのです。
自らの予算を増やしたい中央省庁としては交付金を圧縮したい。地方自治体は少しでも多く交付金を確保したい。
議員が両者の間で股先になったことは容易に想像がつきます。

パワーゲーム

そこで、戦前の地方分与税の仕組みを再導入して、ゲームのレベルを落とそうとする機運が盛り上がったのです。
自治庁内にも分与税の仕組みを支持する勢力がいたことから、妥協が成立し、国税の一定割合を交付税の原資とする現在の制度が出来上がったのです。
なお、この調整の過程で「義務教育費国庫負担金」を代表例として、平衡交付金に組み込まれて廃止されていた補助金が復活することになりました。

※ 歴史的な経緯については、あの石原信雄氏が連載記事にまとめていますので覗いてみてください

Ⅱ 特別地方交付税
交付税の総額のうち6%が「特別地方交付税」に充てられています。
普通交付税が財源不足額に対して交付されるのに対して、特別交付税は「特別の財政需要」に対して配分されます。
その対象は「特別交付税に関する省令」で示されていますが、大別すると以下のとおりです。
普通交付税と違い、基準財政収入額が基準財政需要額を超過する団体(不交付団体)にも交付されます。
(1) 基準財政需要額の算定方法の画一性を補完するもの(地域交通(離島航路等)、重要文化財等)
(2) 基準財政収入が過大に算定されたもの
(3) 普通交付税の算定期日後に生じた事情にもとづくもの(災害復旧等)
(4) その他の特別な事情によるもの(地域医療等)
(5) 基準財政需要額が過大に算定されたものや基準財政収入額が過少に算定されたもの(減額項目)
平成31年度の実績を見ると、主要な交付対象は「災害復旧(13.8%)」、「地域医療(9.0%)」、「地域交通(6.8%)」となっています。


さて、5回にわたり地方交付税制度について解説してきましたが、皆さんはどう感じられましたでしょうか。
私の感想を一点に絞ると「ほとんどの団体が自力で達成できない「ナショナルスタンダード」って、それ本当にスタンダードなのかよ?」です。
無味乾燥な制度解説に長時間付き合ってくださった皆さん、ありがとうございました。

※ 記事を書くために検索していたところ、面白い論文をいくつか見つけました。興味があれば覗いてみてください。

参考及び図表出典:総務省HP
参考図書:「一番やさしい地方交付税の本」稲沢克祐
      「地方財政改革の現代史」小西砂千夫
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